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禾口木丙 京友禅ウールマフラー | 作り手の想い・こだわり

禾口木丙 山形昌宏

京友禅呉服の製造・販売に従事していた頃

今から約35年程前、私は京都の京友禅呉服製造卸に父親の後を継ぐように、京友禅呉服の製造、販売に従事していました。京友禅は加賀友禅とは違い、全ての友禅工程が分業で、京都に数多くおられる職人さんを一軒ずつ周り、自社のオリジナル呉服を製造し、それを全国の小売店、問屋などに卸すという仕事をしていました。

自分できものの図案を考案し、色・配色を考え、それを職人さんと共に一つのきものを作り上げていく、いわゆる京都の手描き友禅きものメーカーで、私自身もその工程の一端を担い、下絵や糊置きや挿し友禅などに従事していました。

時に時代はバブル期、呉服も順調に売れてはいたものの、時代の流れと共にその製造は海外に拠点を移される法人が多く、当社もその選択に迫まれましたが、当初、まだまだ威勢の良かった私は、京都の職人さんを守る!などと息巻いて、海外で京都の伝統工芸品を作ることには反対の方向を取っていました。

山岳ガイドを始めたきっかけ

日本で製造するきものは海外で作るそれよりは、コストの面で追いつかず、きものは高級品になり、生活の変化と共にその需要は減り、また職人さんの高齢化、後継者不足などで、いつか日本できものを作れなくなる時がくる・・という不安、当時趣味でやっていた登山をもう一つの仕事にし、ガイドの研修を経て、「山岳ガイド」としての副業を始めました。呉服の仕事に従事しながらできる仕事、月一回くらいのアルバイト(特に夏場に多く、夏場は呉服が暇なので・・)感覚でやっていました。
今から約18年も前のことです。

安心できる少人数制会員制組織に

はじめは気軽に始めた山岳ガイドでしたが、時を追ううちに、客が増え、10人くらいだったお客さんが、気がつくと250人くらいに増えていたのを思い出します。こうなると、気軽に・・というわけにもいかず、中には多く集まりすぎて、非常に危険な行為をしているのではないか、と思われる山行もありました。
思い出すに、個人ガイドになる前に旅行会社の登山ツアーのアルバイトをしていた私は、その危険さを感じ、幾度か旅行会社と意見が合わないこともありました・・・
それと同じことをしているのではないかと感じ、このままではいつか私達も遭難することが頭によぎり、そこからは安心できる登山を目指しての少人数制会員制の組織として活動することになりました。

現在の主業は?

現在、よく染め物業か山岳ガイドか、どちらが主業?と聞かれることもあるのですが、よく考えてみますと、どちらも昔から私の人生において無くてはならないものでした。呉服の図案を作るために山に登り、そこで見た風景や草花達をデザインする・・また普段呉服の仕事でのストレスを発散するために山登りをする。リフレッシュすると自然と呉服の仕事もうまくいきます。大自然からパワーをいただく・・というのも、身をもって感じることができます。

デジタル友禅を始めたきっかけ

山岳ガイドをしながらでも呉服の仕事、特にお客様の意向に沿った呉服を作る・・仕事をやってはいたのですが、やはり、京友禅は分業であり、高齢化に伴う友禅工程の欠如があからさまに表面化し、今まで私の意向を良く理解いただいている職人さんも徐々に廃業され、後継者や若い方も探せばおられるとは思うのですが、その伝承を伝えるには、あまりにも時間と労力のいる世界で、私は、自分の感覚を自分で作れる唯一の技術として、デジタル友禅を選びました。
勿論、今でも京都で頑張っておられている手描き友禅呉服のメーカーさんや職人さんはおられます。この方々には本当に敬意を表します。

デジタル友禅を学ぶ

かくして、デジタルのことを勉強すべく専門学校に通いました。
しかし、卒業してもそこで得られた知識は即実践力にはならず、各デジタル友禅を手がけておられ実際に染めておられる法人様を転々を周り、そこでいろんなことを教えていただき、自分の形を作り上げることになります。

手描き友禅とデジタル友禅

デジタルというと、人々の多くは「手間をかけずに作られたもの」「コンピューターのソフト上でできたもの」を想像されます。私も初めは、手描きこそ本物で、デジタルは安物扱いしていました。しかし、各メーカーさんを周っているうちにその考えは消え失せました。デジタルでもその元になるデータを作っているのは人間なんだ!ということに気が付きました。これはデジタルでも、人の手によって表現方法が異なります。
例えば、日本の割付模様の入子菱を描くとしましょう。こういう幾何学模様は、デジタルの世界を知れば簡単に正確に再現できます。こういうものはデジタルの最も得意分野と言ってもいいでしょう。しかしながら花の形一つといい、割付模様といい、コンピューター上で作った直線、曲線で描かれたものに工芸品としての「味」はあまり感じられません。
グラフィックアートもコンピューター上で人間が作るものには変わりがないのですが、「味」を感じさせる・・という意味では、手描きで表現する他ない・・ことに私は気付きました。

友禅工程を一つずつデジタルで再現

そこで考えたのが、手描きとデジタルを融合させる世界です。
「味」以外のデジタルの得意分野はパソコンに任せるとして、「味」が必要な部分は、全て手描きで表現する。具体的には、大きなキャンバスの上にきものの下絵を描くように、ペンや筆で絵をこしらえるのです。先程話した幾何学模様も下絵に従って一つずつ手描きで書き直します。

<下絵・糊(糸目)置き>

そこには手描き友禅でいう、いわゆる青花で描いた「下絵」が完成します。
手描き友禅の世界では、次の工程として「糊(糸目)置き」があります。
これは、次の「挿し友禅」で色がはみ出さないように米で作った糊を細い筒に入れてチューブ状にし、下絵の上に置いていく技術です。筆のタッチや味を消すことなく糊置き職人は巧みに生地の上に置いていきます。
デジタルの世界では、手描きで描いた下絵をスキャナーで読み込み、コンピュータ上でスタイラスペンを用いて下絵の線が切れているところはないか、などを細かく修正し最終的には糸目糊置きができあがった状態を作ります。

<挿し友禅>

次の工程の「挿し友禅」手描きでは友禅職人が、蒸し後の色の変化を考えて一つずつ筆と刷毛で色を挿していきます。デジタルでも、私は、画面上で、ひとつずつ色を考えてペンと筆(ソフトではいろんなペンや筆を使えます)で挿していきます。ひとつずつの花の色をぼかす時も同じようにやっていきます。

手描きとデジタルの大きな違いは、「修正ができること」にあると思います。とはいえ、最終的にデータを染める段階で染難が出れば修正はできませんが、それまでのデータを作る段階で色の違いなど、はみ出した部分を消すなど、そういう修正ができます。これは、手描きの「地直し」工程を大幅に削減できる、デジタルならではの最大の長所と言えます。

<蒸し・引染め>

手描き友禅では、次の工程に「蒸し」で挿し友禅の色を定着させます。
その次に糊伏せをして友禅の柄の部分に糊をベタで置き、その次の工程の「引き染め(地染め)」で地色が柄に中に入らないようにします。
デジタルでは、下絵、糸目、挿し友禅、地色と全てレイヤー分けし、どこを編集しても他の工程には影響がでないようにしています。
これもデジタルの優れたところで、画面上で地色を入れた全体の柄をイメージすることができます。手描きの世界ではあくまで頭の中で考え、ほとんど一発勝負!なのですが、画面上で視覚的に確認できるのは、デジタルの長所の一つと言えます。確実性という意味では、ここはデジタルを使うのが最も安心できる確実な方法だと思います。次の「蒸し」の工程で色が変わるのを想像しながら色を出すことは、手描きと変わりませんが。。

デジタルではこのデータに基づいて機械で染めて行きます。
現在、日本では素晴らしい染機械の技術革新により、高性能な染色の機械があります。その機械を駆使するのも機械染職人の腕の見せ所です。
生地により、素材により、染料を変えたり、色々な微調整を繰り返して一つの染め物ができあがります。

手法は違えど・・

手描きにしろデジタルにしろ、ここまでの友禅の工程を経て、一つの友禅染の染め物が出来上がっています。デジタル化されてイメージ通りのものが作れるようになったのですが、手法は違えど、元を作っているのは人間で、そのセンスによって、ひとつずつ商品の「味」が変わります。

私は、この手描きの上を行く「味」を出すために、新たな奥深い世界に残りの生涯をかけて挑むことにしたのです。

禾口木丙 ブランド設立のきっかけ

呉服の時代変化と共に、今まで「板場」として手捺染や機械捺染を主にされてきた工場が、デジタル化と共に、デジタル友禅に移行されていることが、私の目には新鮮で、これからの時代は、自分の作ったものをデジタルで表現する、手描き友禅とは勝るとも劣らない形の友禅方法だと確信しました。
山登りをしていてふと山で使える手ぬぐいやウールを自分で染めてみたい。と思ったのもその頃です。
手描き友禅で手ぬぐいを作る。でも、そうなるとその売値はバカ高いものになり、とても売れる気がしません。それで勉強していたデジタル友禅で今まで培った友禅技法、2万点にも及ぶ自社のデザインの数々を駆使し、アレンジし、和柄を和柄に見えない様な、山で映えるような鮮やかな色で、1枚ずつ染めてみることにしました。それが「禾口木丙(のぎぐちきへい)」ブランド設立のきっかけです。

禾口木平 デジタル友禅手ぬぐい

デジタル友禅の染はメートル単位で染価が決められており、長く染めても短く染めてもほぼ同じなのでいろんなデザインを1枚ずつ染める・・などに適した染め方と言えます。

木綿ではデジタル友禅、手捺染共に染めましたが、私のこだわりとしては、同じデザインを一度に多く染めたくない・・というのもあり、上記の理由もあり、手捺染よりは、デジタル友禅をメインに考え、一つずつ丁寧にユーザーにお似合いの一品を作ることを信条としています。

禾口木平 京友禅ウールマフラーができるまでの戦い

登山用品を見渡しても、近頃ウールの相場が値上がりしているという背景もあり、化繊におされて、売っていないのが現状です。そこで、初めは登山用にウールを染めるというのを目標にやってみたのですが、これが難航を極めました。

当初、ウールは先染め(糸から染める)のものと思っていたのですが、そうではなかったのです。今まで、呉服ではシルク(絹)しか染めたことのない私は、他の素材のことをほとんど知りませんでした。

ウールに染めることは、とても一人でできることではなく、染職人さんの協力を得て、はじめて成り立ちます。

ウールにも色々と種類があり、染められるもの染められないものがあります。
基本的には、ニットなど伸び縮のあるものや、毛足の長いものはデジタル友禅では染められない傾向にあります。

日本国中色々と生地を求めて探し、まずは軽さと暖かさを求め、また手軽に山で使えるものとしてのコンセプトでやっと今の生地を見つけました。

ただ、この生地、とっても軽くて暖かく実用的にはいいのですが、毛足が長いこと、柔らかすぎることなど、染められるかどうか・・が当初は微妙でした。
また、ウールに関しては、染料に対してもある特定の色が濃く出たり薄く出たり、また定着率が非常に悪かったり、染料飛びが出て難物になる確率も高いなど、思うようには進まず、上手く行かないところを職人さんと相談しつつ、時には諦めたくなる気持ちと戦いながら、1年以上かけてやっと今の商品の形になりました。

完成!禾口木平のデジタル友禅 ウールマフラー

禾口木丙 山形昌宏

商品にする上で、初めは4辺三ツ巻をしていたのですが、この部分が固くなり肌触りに問題があるため、今まで考えもしなかったウールの切りっぱなしを思いつきました。この生地は糸の撚りが甘くほとんど平織りに近い素材であること、また、糸が太くて薄いこともあり、切りっぱなしにしていても、使っている内に隣同士の糸が絡み合い、自然フリンジ状になり以後は糸抜けなどはなくなる・・など、この生地ならではの特徴をうまく活かすことができました。

今でも油断をすると、手痛いしっぺ返しを食らうウールですが、これからも新しいデザインのより洗練された形のより良いものを創り出していきたいと思います。

「禾口木丙」設立して4年になりますが、新たなる挑戦へ!
「染められないものはない!」との気持ちで、羽ばたいていこうと思います。

禾口木丙 山形 昌宏 

 

禾口木丙 山形昌宏

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